かつて、国立大学を志す高校三年生を、数名指導していたことがあります。
その中に、進学校に通う、きわめて優秀な生徒が一人いました。他の生徒は、いわゆる県立高校に通う、ごく一般的な
学力層の生徒たちでした。
しかし、日々の学び方は対照的でした。
県立高校の生徒たちは、ノートを作り、辞書を引き、一文一文を確かめながら、着実に理解を積み重ねていきました。
一方で、進学校の生徒は、試験前に要点を押さえるだけで高い成績を収めることができる、いわば「能力」に恵まれたタ
イプの生徒でした。
やがて大学卒業の頃、それぞれの進路を知る機会がありました。
地道に努力を重ねてきた生徒たちは、大学院へ進学し、あるいは海外へと学びの場を広げ、さらに社会においても確かな
道を歩み始めていました。
それに対して、あれほど優れていたはずの生徒は、その後の進路において、必ずしも順調とは言えない様子でした。
この違いは何か。
それは「能力」ではなく、「自らを育てる力」の差です。
コツコツと学ぶという行為は、単に成績を伸ばすための手段ではありません。
自分で考え、調べ、書き、理解を深めていく——その一連の過程そのものが、人を内側から鍛え、持続的に成長させる
力となります。
この力を身につけた人は、環境が変わっても、自らの力で学び続け、成長し続けることができます。
その結果として、その人は周囲から信頼され、やがて尊敬される存在となります。
言い換えれば、学びとは知識の習得にとどまらず、人間としての在り方を高めていく営みでもあります。
「頭が良い」という言葉があります。
しかし、真に意味のある知性とは、地道な積み重ねの中でのみ培われるものです。
努力を重ねる人は、確実に思考力を深め、人間としての厚みを増していきます。
一方で、努力を避け、持っている能力のみに依拠する姿勢では、たとえ一時的に高い成績や偏差値を得たとしても、それ
を持続的な力へと結びつけることは難しいでしょう。
社会において求められるのは、「できること」そのものではなく、「成長し続けられること」だからです。
中村塾ZENが大切にしているのは、まさにこの点です。
目先の点数や合格にとどまらず、自ら学び、自ら伸びていく力を身につけること。
そのために、辞書を引き、文章を精読し、ノートを作り、思考を積み重ねる——一見すると古典的でありながら、本質
に根ざした学びを徹底しています。
勉強とは、単なる受験のための手段ではありません。
それは、人が人として成熟していくための営みです。
「もっと勉強しなさい」とは、より良い学びを重ねなさい、という意味なのです。
その原点を、これからも大切にしていきたいと考えています。